『文学部唯野教授』の感想

これは pyspa Advent Calendar 2017 の18日目の記事です.

読書と私

子供の頃はそれなりにたくさん本を読んでました. 小説 (特に推理小説), 科学の本, 数学の本, 宇宙の本, その他雑多に, 1日あたり1冊くらいのペースで読んでいたと思います. 小説は自分の生活では体験できないことを疑似体験できるのが楽しくて読んでいました.

大学に入ったあたりから, 周囲の人間の方が面白人間のサンプルとして質が高くなったためか あまり小説を読まなくなりました.

どんな本なの?

小説を積極的に読まない私でしたが, pyspa Advent Calendarにも参加している @turky さんがどこかで触れていた『文学部唯野教授』という本を知ります.

この方が名前を出す本は何かしらの意味で絶対に面白いはず, と確信しているので, すぐ Kindle で購入しました. ちなみに iPhone の Kindle で小説を買うのも, 読破したのもこの本が初めてです.

本のタイトルから想像される通り, 唯野仁という名前の文学部教授のちょっと変わった日々を綴ったのがこの本です.

(ここから先はネタバレを含みます)

面白いと思ったところ

まずこの本の構造自体が面白いです. この本の半分は唯野教授の講義のセリフとなっていて, 残りの半分は主人公である唯野教授のトラブルだらけの日常を描いていています.

講義の場面では地の文がほとんど出てこず, モノローグの戯曲を読んでるような気分になります. またその分量から「自分は小説を読んでいるのか, 講義資料を読んでいるのか, どちらだ」とやや混乱していきます.

しかも講義が「比較文学論」という文学批評理論の歴史を扱っていて, 文学批評理論を生み出した実在する人物, 実在する小説家や実在する小説の具体的な名前が出てくる上に, 「筒井康隆」「文学部唯野教授」という名前が唯野教授の口から発せられます. 批評理論の講義は時系列順に各理論の解説をしていくため, 「このまま進んだら存命の人物の名前も出てくるかもしれないがどうコメントするのだろう」という期待が膨らみつつ物語が進んでいくところもお気に入りです.

自分が読んだ本の中では『ソフィーの世界』を連想しました. これも, 物語の書き手と物語の登場人物の地平が入り交じる本でした.

残りの半分である唯野教授のトラブルだらけの日常もなかなか狂っていて面白いです. 主に大学を舞台にトラブルが起きますが, どうやらこの本で描かれていることは, 1つ1つは実際に起きた事件なんだそうです [1]. (その上で, 出てくる大学名が「早治大学」とか「立智大学」という隠し切れていない伏せ字みたいになっています.)

全てが現実の出来事ではないかもしれませんが, 色んな狂ったような事件が学問を極めている人達のコミュニティで起きるのは単純に面白いですね. その方が人間らしく好感を持ちます.

今これと同じアイディアで, 元ネタとなる Twitter とか Facebook の発言へのリンクが, 脚注から張られている小説があっても面白いんじゃないかと思います. (今, 凍結で話題の Togetter はそれに近いかもしれませんね.)

不満・不完全燃焼なところ

ヒロインの1人である榎本奈美子がどういう位置付けの存在なのかがはっきりしないまま物語が終わってしまったところが不満です. 「はっきりしない」というのは, 本心を全て見せたわけでもなく, 彼女の家族も登場するもののどういう人間なのか深く描かれることもなかったことを指しています. こういう読者の感情に細波を立てるという意味では, 自分も唯野教授と同じく振り回されたことになるのでしょう.

さっき「ヒロインの1人」と書きましたが, 唯野教授は本人の自意識とは関係無くこの本の中ではけっこうモテます. タイミングが良いのかもしれませんが, 本人が頑張ったりしたわけでもないのに, 脈略も無くモテるのは読んでいて違和感を感じました. そこの部分だけ, 登場人物が都合の良い駒のように見えてしまい, ある種の気持ち悪さを覚えました.

最後に

ここまで書いた通り, 『文学部唯野教授』という本は小説と読んで良いのか迷うような本であり, 大学の闇が描かれている暴露本であり, 突然のモテ展開が始まるラノベ (出版時期からすると逆ですが) みたいな本です.

こういう本が好きな人は読んでみてください. そして読んだ人は本の感想をインターネット上のどこかで公開してください.

[1]http://d.hatena.ne.jp/daen0_0/20090816/p1