位相のイメージ (その2) – 位相の定義

位相のイメージ (その1) では位相に関わる概念の全体像について語りました. いわば全体地図の上でスタート地点とゴール地点とそこを結ぶ道筋を説明しました. この記事ではもう少し詳細に各概念の定義を比較していこうと思います.

各種定義

これから位相の話をするために, まず各種概念の定義を見ていきましょう. と言っても, 大学の講義のように形式的な定義を紹介するだけでは, この記事を書く意味が無いので具体例も交じえて説明していきます. 例には4点集合 \(S = \{1, 2, 3, 4\}\) を使います. これは要素が4つの集合です. 抽象的な概念を考えるには, これくらい小さな簡単な例の方が良いのです.

位相

まずは位相空間の定義です. 「空間」と特別な名前のように聞こえますが, いくつかの条件を満たす集合のことです.

集合 \(X\) とその冪集合 (べきしゅうごう, 部分集合を全部集めた集合のこと) \(\mathfrak{p}(X)\) の部分集合 \(\mathcal{O}\) の組 \((X, \mathcal{O})\) が次の条件を満たすとき位相空間と呼びます.

  1. \(\emptyset \in \mathcal{O}\) かつ \(X \in \mathcal{O}\)
  2. \(O_1 \in \mathcal{O}\) かつ \(O_2 \in \mathcal{O}\) ならば \(O_1 \cap O_2 \in \mathcal{O}\)
  3. \(O_{\lambda} \in \mathcal{O}\ (\lambda \in \Lambda)\) ならば \(\bigcup_{\lambda \in \Lambda} O_{\lambda} \in \mathcal{O}\)

\(\mathcal{O}\) のことを「位相」と呼び, \(\mathcal{O}\) の元 (\(X\) のとある部分集合) を「開集合」と呼びます.

1つ目の条件は「ある集合 \(X\) が位相空間になるためには, \(\emptyset\)\(X\) も開集合でなければならない」という意味です.

2つ目の条件は「ある集合 \(X\) が位相空間になるためには, 開集合と開集合の共通部分は開集合でなければならない」という意味です. この条件を複数回使って「ある集合 \(X\) が位相空間になるためには, 有限個の開集合の積集合 (共通部分) は開集合でなければならない」と言っても同じことですが, 「無限個の開集合の共通部分」は必ずしも開集合になる必要はありません.

3つ目の条件は「ある集合 \(X\) が位相空間になるためには, いくつかの開集合の和集合 (合併集合) は開集合でなければならない」という意味です. 2つ目の条件とは違ってこちらは「無限個の開集合の和集合」も開集合になる必要があります.

位相空間の例

4点集合 \(S = \{1, 2, 3, 4\}\) を使って, 位相空間の例を作ってみましょう. とっかかりとして, 少なくとも \(\{1, 2\}\)\(\{1, 3\}\) は開集合だということが判明しているとして, 位相 \(\mathcal{O}\) を決めていきます.

../../../_images/topology_on_4points_set.png

まずは1つ目の条件から. これは簡単で \(\emptyset \in \mathcal{O}\), \(S = \{1, 2, 3, 4\} \in \mathcal{O}\) となってれば良いのです.

次に2つ目の条件から. ここまでで開集合だと判明している \(\emptyset, \{1, 2\}, \{1, 3\}, \{1, 2, 3, 4\}\) どうしの積集合を取ってみましょう.

積集合を取ってみる
\(\cap\) \(\emptyset\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)
\(\emptyset\) \(\emptyset\) \(\emptyset\) \(\emptyset\) \(\emptyset\)
\(\{1, 2\}\) \(\emptyset\) \(\{1, 2\}\) \(\{1\}\) \(\{1, 2\}\)
\(\{1, 3\}\) \(\emptyset\) \(\{1\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 3\}\)
\(\{1, 2, 3, 4\}\) \(\emptyset\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)

ここで新たに \(X\) の部分集合 \(\{1\}\) が開集合だと判明しました. これも位相 \(\mathcal{O}\) の元となります.

../../../_images/topology_on_4points_set_intersection.png

積集合を取る操作ではこれ以上開集合は見付からないので, 次の条件に移りましょう.

最後に3つ目の条件から. ここまでで開集合と判明している \(\emptyset, \{1\}, \{1, 2\}, \{1, 3\}, \{1, 2, 3, 4\}\) どうしの和集合を取ってみましょう.

和集合を取ってみる
\(\cup\) \(\emptyset\) \(\{1\}\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)
\(\emptyset\) \(\emptyset\) \(\{1\}\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)
\(\{1\}\) \(\{1\}\) \(\{1\}\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)
\(\{1, 2\}\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 2\}\) \(\{1, 2, 3\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)
\(\{1, 3\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 2, 3\}\) \(\{1, 3\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)
\(\{1, 2, 3, 4\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\) \(\{1, 2, 3, 4\}\)

ここで新たに \(X\) の部分集合 \(\{1, 2, 3\}\) が開集合だと判明しました. これも位相 \(\mathcal{O}\) の元となります.

../../../_images/topology_on_4points_set_union.png

積集合を取る操作および和集合を取る操作でこれ以上開集合は見付からないので, 確実に開集合になる集合はここまで見付かったもので全部です. 別の言い方をすると

\[\mathcal{O} = \{\emptyset, \{1\}, \{1, 2\}, \{1, 3\}, \{1, 2, 3\}, \{1, 2, 3, 4\}\}\]

\(\{1, 2\}, \{1, 3\}\) を開集合とするような最小の位相です.

位相の定義の特徴

ここから「閉包作用素」「開核作用素」「近傍系」「開基」「準開基」それぞれの定義を書くつもりだったのですが, 長くなってしまったので次回以降に回します.

位相の定義を述べたところで, その特徴についてコメントしておきます.

位相の定義には, 位相空間 \(X\) の元の話は一切出てきません. 出てくるのは \(X\) の部分集合だけです. 位相幾何学 (topology) と言うと, 空間 \(X\) の何らかの意味での形について考えているはずなのに, その空間の具体的な点が定義に登場しないというのもちょっと不思議な気がします.

この特徴に気付いたときに, 学ぶ上での位相の難しさというのは空間の点でなく空間の部分集合で記述されているところから来ているのかな, とふと思いました.

それでは次回へ続きます.